五月二十六日の常任世話人会では山本英典氏(東友会副会長、東京非核政府の会常任世話人)が「原爆症認定訴訟・大阪地裁の勝訴判決と今後の課題」と題して、話題提供を行いました。
 その大意を紹介します。
山本英典氏(東友会副会長)


被爆者、核兵器廃絶願う人全体の勝利

今回の大阪地裁の判決は九人の原告の勝利だけでなく、集団訴訟に立ち上がったすべての原告や二十六万人の被爆者、原水爆禁止を求めている人たち全体の勝利です。
 厚生労働省は控訴期限を待たず二十二日、控訴理由をマスコミにも知らせずに不当にも控訴しました。これは厚生労働省の自信のなさの表れでもあり、またこの判決が確定したら大変だということで大あわてでやったという感じです。


大阪地裁判決が
 もつ三つの意味

 五月十七日の東京地裁の口頭弁論では、京都の尾藤廣喜弁護士が「近畿原爆症認定訴訟判決の意義」について陳述しました。その内容にもふれながら今回の判決の特徴や意味についてふれたいと思います。

DS86は机上の
 シュミレーション

 第一に、今回の判決は厚生労働省側が原爆症認定の審査基準に使ってきたDS86やDS02が机上でのシュミレーションにすぎず、計算値と実測値の違いがあることは明らかだとしたうえで、その具体的適用は慎重にすべきだと判断しました。
 第二に判決はDS86.DS02が残留放射線や放射性降下物による被爆を広島、長崎のある特定地域に限定していますが、判決では「(特定地域に)限定されるべき実態はない」と指摘し、入市被爆者の内部被爆についても認めました。これは画期的意義をもっています。これは、多くの科学者の方々ーこの会では増田善信氏(気象学者)に(科学的解明などで)ご尽力をいただきましたが、これも大きくものをいったと思います。
 第三は、判決では原因確率について「確率が大きければ間接事実として斟酌できる」が「小さいからといって直ちに経験則上高度の蓋然性が否定されるものではない」としたことも大きな意義があり、裁判所が下した英断だと思います。


被爆の影響は総合的、全体的に検討すべき

 また判決は、被爆の人体への影響を考える場合には被爆前の生活状況、健康状態、被爆状況と被爆後の行動経過等を対比しながら全体的、総合的に考えるべき性質のものだと判断しました。これは長崎原爆松谷訴訟の最高裁判決、東数男東京高裁判決の判断と同じ流れなんですね。要するに原因がわからない場合は全体的な判断をして結論をださなければいけないという考えです。この点でも今回の判決の意味は大変大きいと思います。

入市被爆、遠距離被爆も認めた

大阪の場合、原告九人のうち、ガンの人が三人、ガンでない人が六人いました。私たちは、非ガンの人や近距離以外の人などは却下されるかもしれないのでは、という恐れもありました。また裁判所が勝手に基準をつくるわけもないので、全員却下か、全員認定しかないとも思っていました。まさにその通りになって全員が認められました。とくに入市被爆者が二人、三.三キロの遠距離の人も認められました。私が被爆したのは爆心地から四.二キロなんですが、今回の判決で三.三キロの人も認めましたからね。この判決によって、四.二キロの私も、五キロ、六キロの人たちも被爆者手帳を持っている人はすべて該当するんだということが強力に主張できるのではないのかと思います。入市での内部被爆や遠距離被爆をみとめた今回の判決は画期的だと思います。

判決文を多くの人に 読んでほしい

この判決は約六〇〇頁で分厚いものですが、好い判決ですから大いに普及したいと思います。
 つぎの判決は広島地裁です。広島の原告四十一人のうち六人が白内障です。これまででは白内障で原爆症認定されたのは一人だけですが、放射線をあびれば白内障は必ず起きることも最近の医療技術をつかって明らかに出来るそうです。
広島地裁で白内障の人も認められると白内障該当者がいっぱいいますから影響が大きいと思います。 東京地裁は七月十二日に結審で年内に判決があるだろうと思います。名古屋地裁が九月四日に結審、仙台地裁も九月五日に結審を迎えます。熊本、千葉も年内結審です。


政治的決着はかりたい

 判決があって控訴する、また判決があって控訴する。こんなに裁判を重ねると高齢の被爆者はみんな死んでしまいます。マスコミも「大阪地裁判決だけで解決すべきだ」という社説を各紙が出しました。原爆裁判はこれまで八連勝です。国は八連敗。それでも反省しないというのでは人道的にも許せない。ですから政治決着をはかっていく、そのためにいま各党の国会議員に働きかけをして政治決着をはかっていきたいと思います。
いま被団協も検討しているのは、疾病ごとに政令を出し、この病気になったら原爆症と認定するという式のものにして、現行の審査をして切るというやり方をやめさせる。切るのでなく認める方向でやらせようではないかと検討しています。
 この原爆裁判を勝利させるためには、より多くの申請者が必要で、原爆症認定の集団訴訟運動を三月の十四日から始めました。今日まで全国で約八十三人、そのうち東京は四十五人です。大阪地裁判決のあとの原爆症認定についての電話相談「110番」は、テレビ、新聞でも報道され大変な反響があります。東京にも広島、長崎、大阪などから電話があり、日本被団協には五十本近い電話がありました。大阪の判決で初めて原爆症認定という制度があることを知り、こういう病気でも認められると知って、電話の相談が増えてきています。集団申請は相当増えていくのではないかと思っています。弁護団からも国を動かすには五百人、千人規模の集団申請が必要だと指摘されそのために力を入れています。


被爆の実相を広げ

 今後も被爆の実相や国の被爆行政の実態の宣伝を強め、国民世論にしていくことが求められています。被爆の実態の残酷さを裁判を通じて明らかにしていくことも当初の目的でしたけれどこの裁判を通して被爆の残酷な実相があきらかになっています。たとえば、当時、従姉妹に就職先を世話したために被爆して死んでしまった。そのため従姉妹は自分が殺してしまったという自責の念で被爆の実相をこの裁判の本人尋問があるまで六〇年間隠し続けていた人が裁判で初めてその思いを明らかにしました。身につまされるような話でした。
 小頭症の子どもを抱えているあるお母さん、お土産を渡したら原爆症がうつるからとみんな捨てられてしまった証言など、原爆があのとき人を殺しただけでなく、六〇年間どんなに人を苦しめてきたかということが明らかになってきています。


証言集の普及に協力を

 こうした被爆の実相は裁判記録にありますが、みんなに知ってもらうために、被団協から証言集が出されています。東京でもそれを作りたいと思います。弁護団と原爆症認定裁判を支援する全国ネットワークがパンフ「扉を開けて」を作りました。一冊三〇〇円ですが非常にわかりやすい内容で綴られています。ぜひ多くの人に読んでほしいと思います。これを読んでもらえれば原爆症認定が被爆者二十六万人のうち、わずか二千人ということもわかり、この数字を見ただけでも国の冷酷な被爆行政がわかります。ぜひ普及をしてほしいと思います。またいま厚生労働大臣宛の署名にもとりくんでいます。また裁判の資金が大変必要になってきています。弁護団には謝礼も日当も出していないんですが、せめて弁護団会議をひらく交通費の実費だけでもと思っています。これにも資金が必要です。ご協力をお願いいたします。
 これまでの裁判では国側の証人はわずか三名だけです。要請してもみんな断られています。それでも国はいたずらに裁判を引き延ばしています。これは、原爆投下したアメリカをかばいたい。核の恐ろしさを国民に知らせたくない。核の傘のもとにあってアメリカを非難することはさけたい。こうした核にしがみつく日本政府の姿勢が被爆行政にも現れてくるんだと思います。こういう冷たい被爆行政を続ける日本をどうして愛せるでしょうか、愛国心を持てるわけはありません。ご支援をお願いします。