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2014年2月
当会の常任世話人会での報告
国民から見た新「東電再建計画」
事故の収束・賠償完全実施より,企業存続優先1 @

報告 鈴木 章治(当会常任世話人、東京電力出身)
〈はじめに〉

 ことし1月、政府は、東京電力が提出した「復興」を加速化するとした「新・総合特別事業計画」を承認しました。
 この「事業計画」は、実は2016年から段階的に「脱国有化」をすすめ2030年代前半には「自立的運営体制」にするとした東電の「再建計画」に他なりません。 復興を加速させるには、まず東電の経営立て直しが必要だというのです。これで本当に、国民が求めている事故の収束・廃炉、住民への万全な賠償に応える計画になっているでしょうか。
 この点を中心にお話ししたいと思います。

〈基準を超える敷地境界の放射線量〉

 東京ドーム約70個分の福島第一発電所、事故前は野鳥の森など半分以上は緑に覆われていた敷地は、現在、林立する汚染水タンク群、汚染水処理装置が建ち並び、張り巡らされる配管などで一変しています。問題は、原発敷地境界の放射線量が国の基準である年間1_Sv(シーベルト)を超え、8_Svに達していることです。原因は汚染水です。汚染水タンクからの影響が約9割で、タンクまわりの堰内、排水溝からの放出もあります。
 東電は、規制委の指摘を受け2年以内に2_Svにするといっていますが、実現するにはほど遠い環境下に置かれています。そういう中で労働者は復旧作業をすすめているので被ばくにも影響します。汚染水対策の立ち後れはこういう問題も生んでいるのです。

〈1〉経産省官僚と東電の二人三脚   
東電破綻をさせない仕組みの継続

 承認された「再建計画」の特徴の一つは、事故の収束や被災者への賠償の完全実施よりも、いかに東電を破綻させず存続させるのかを最優先させたものになっています。
しかも、この「東電再建計画」は、事実上、国(経産省官僚)と東電の二人三脚でつくりあげました。政府がそのまま認めるのは当然で、まさに出来レースです。

〈2〉融資先メガバンクなど金融機関に損をさせない仕組みも

二つは、いかに融資先の大手金融機関に損をさせないかが前提になっていることです。
 東電は事故後も金融機関から融資をうけています。主要金融機関11社の東電への融資額は4・5兆円です。東電は、これらの融資が回収不能になることを避けたいという金融機関の求めに応じた仕組みを作りました。
事故後、無担保だった融資を一般担保付きの私募債にするという形にしたのが新たなカラクリです。つまり、仮に東電が破綻した場合、被災者に優先して弁済させることができるわけです。これは国会でも共産党の塩川鉄也議員がかなり突っ込んで追求し、東電も認めマスコミでも大きく取り上げました。
 塩川議員の調べては、会計監査院報告から事故直後(11年3月末)と13年3月末を比べると無担保借入金が約6700億円減りその分担保付きの私社債に置き換えられていることがわかりました。その背景は、貸した金が戻らなくては困るから「東電はつぶさないで」という金融機関、メガバンクの要求に応えた仕組みづくりです。もちろん借入金の利息もしっかりと支払っています。
 これほどの大事故になり、被災者がいまだに避難生活を強いられているなかで、貸し手責任は厳しく問われなければならないと思います。
 この「再建計画」では、現在、東電の株の約55lと議決権の過半数を国が保有していますが、これを徐々に減らして2020年代初頭までには国の議決権を2分の1未満に減らし、半ばには3分の1未満にし、2030年代前半にはゼロにし、東電の「自立的運営体制」を確立するとしています。つまり「もうけ本位」の東電に立ち返らせることをもくろんでいるんです。

〈3〉そのための「柏崎刈羽原発の再稼働」

 東電が「自律的経営」ができるための一番の柱は柏崎原発の再稼働です。再稼働はいわば「東電再建」の絶対条件です。「計画」は、柏崎刈羽原発はすくなくとも6、7号機の再稼働から始まって1、5号機を2015年3月までに稼働させたいとしています。実際、東電はすでに13年9月に6、7号機は再稼働申請をおこない国も審査をはじめるとしています。計画では、今年の7月の再稼働を目標に地元への新基準の一つであるフィルター設置の説明会などをやって「基準を守るから安全」だといいますが、新潟県泉田裕彦知事は、計画は「株主責任、貸し手責任を棚上げにしている」「モラルハザード(倫理観の欠如)の計画」だと批判し、再稼働を認める立場にはいまのところ立っていません。柏崎市、刈羽村の二つの自治体は再稼働については「前向き」ですが、泉田知事の反対で7月再稼働は全く見通せず、まさに「絵に描いた餅」です。

〈4〉いっぽう国民には負担増  

 いっぽう国民に対しては、「再建計画」で「もし再稼働ができなければ、電気料金を最低10l値上げしないと東電は成り立たない」とはっきり言っています。これは、先ほどもふれた金融資本向けです。「原発再稼働」か「料金値上げか」と国民に迫り、「ここで利益を生まないと東電はつぶれる。そうなれば4兆5千億円は金融機関に戻りません」と。これはなんとしても避けたいという東電の姿勢を示したのだと思います。
 また「計画」では相変わらず、本当に相変わらずですが、これだけの被害をもたらした大事故なのに「原子力はエネルギー政策の根幹であり、安定した電力供給のためには欠くことのできない電源」だとの立場を変えていません。ですから福島第一の5、6号機は、現在は廃炉を決定しましたが、東電は最後まで再稼働の準備をしていました。
 また福島第二原発の1〜4号機は柏崎刈羽と同じように再稼働の準備は100l終わっています。いつでも再稼働申請できますよというところまで準備は進んでいます。柏崎原発が再稼働できれば、2020年代前半には、年間1兆円の料金値下げ原資と毎年1000億円の利益を上げられる、また2030年代前半には年間3000億円の利益が上げられるといっています。つまり借入金を上回る利益を生み出すといっているんです。金融機関への配慮です。
 いっぽう国民には、再稼働できなければ最低10%の値上げだと言ってはばかりません。この根拠は昨年の料金値上げの際、国が決めた約束事です。前回の値上げの際、政府は「電力会社の自助努力が及ばない電源構成の変動」つまり再稼働を予定したができなかった場合、値上げは可能という制度を設けたのです。政府・東電は「再稼働できなければ料金値上げ」でなんとしても「黒字経営」をはかろうとこの「再建計画」をつくったのです。
 もう一つの国民の負担増は、賠償、除染を行う資金として税金の投入です。賠償は東電がおこなうというのが基本的な仕組みです。しかしこの原資は税金です。現在、最大5兆円までは国から投入されることになっています。
 「再建計画」では、2014年度から山林や墓地などの賠償を開始するとしています。東電は、賠償を完全に実施するには5兆円をこえるといい、「最大9兆円まで税金投入を認めてほしい」と国に求め、政府も認める方向です。
 「計画」は、除染費用も2兆5千億円かかり、また中間処理場をつくるために1兆1億円を見込んでいます。この資金は税金を投入し、国への返済は、現在国が保有する株を売って国に返すと考えています。東電の懐は痛まない。廃炉の費用は、基本的には東電が持つとして、現在、企業内に1兆円貯め込んでおり、実際廃炉に関わる費用はここから捻出しています。しかし溶けてしまった燃料デブリの取り出しや原子炉の解体、廃炉などにどれだけの費用がかかるのか、今のところ見通しが立っていません。溶けてしまった核燃料がどうなっているのか調査するロボット開発も結局税金です。

〈5〉労働者にも負担増ー合理化の徹底で10年間に4・8兆円のコスト削減

 働く労働者はどうでしょうか。
 東電社員は事故前には約3万9千人近くでしたが、いまでは3万6千人です。事故後、年収2割カットや社員に対するバッシングが強まるなか約1500人が退職しました。このうち4割ぐらいが20歳台、30歳台の社員で「このまま、東電にいても先行きの見通しがない」ということで、辞めています。「再建計画」では、3年後に人員を3万4千人台にするとしています。その手段として1000人の希望退職が実施されます。東電社員の賃金2割カットはいまも続いています。退職金、企業年金も減らされました。福利厚生関係も全部カットされました。しかも、福島で自身も被災した東電社員に対して「あなたの補償はちょっと待ってくれ」と本店側から言われて一部補償すらうけられないなど、東電社員の負担は大変なものです。賠償を求める訴訟の一員になった社員もいます。そのうえ「再建計画」では事故当時の2011年3月時点で50歳代の管理職500人は、55歳役職定年で退職させ、再雇用で福島で賠償や汚染対策の仕事に選任させるというものです。
 すでに人選がはじまり戦々恐々という状況が生まれています。東電は10年間で1兆円近くのコスト削減をする計画ですが。そのうち600億円を人件費カットで生み出すとしています。
 これが今度の計画の内容になっています。(
つづく