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2014年2月
当会の常任世話人会での報告
国民から見た新「東電再建計画」
事故の収束・賠償完全実施より,企業存続優先A

報告 鈴木 章治(当会常任世話人、東京電力出身)

復旧作業に必要な労働者が確保できるのか

 現場の状況は把握できない中で30〜40年と予想されている廃炉。この間の高い放射線量のなかで様々な作業が続きます。復旧作業に取り組む労働者(東電社員外)の被ばく線量は平均1_Sv(シーベルト)です。事故後3年間で累計50_Sv被ばくした労働者は約1、900人となり、下請け労働者の数が増える傾向です。東電はサイト内の被ばく線量の低減や労務費増で作業員を確保すると言います。また「労務費増」とはいえ、ピンハネの常態化を黙認している現実をみれば、あまりにも楽観的です。

〈6〉廃炉・汚染水の問題

安倍政権は民主党政権時の廃炉への「中長期ロードマップ」を踏襲しています。廃炉まで30〜40年先(それも予想)まで何が起こるかわかりません。 東電は、毎週規制委員会に汚染水の処理と貯蔵状況を報告しています。 4月29日の報告ではセシウム除去後の汚染水が約38万立方b、多核種除去設備で処理した汚染水(含トリチウム)が約8万立方b貯蔵されています。もちろん海には放出できません。原子炉建屋などにため込まれ、何も処理されてない高レベルの汚染水が付属建屋も含めて約約9・2万立方bためられています。また汚染水処理の過程で発生する放射性廃棄物(廃スラッジなど)などの高レベルの放射性物質が建屋の中に保管されています。 さらに敷地内に地下水が一日800dも生じ、このうち400dが建屋内に流れ込んでいます。溶けてしまった核燃料を冷やすため、処理した水を循環させていますが、これが一日400d。セシウム除去など処理した汚染水は再度冷却水として循環させますが建屋内に流れ込んでいる地下水の抑制対策は遅れに遅れ、汚染水はどんどん増えるいっぽうです。
 政府・東電は、汚染水対策の切り札として多核種除去装置(ALPS・アルプス)というトリチウム以外の放射性物質(62種)を除去する設備を導入し、高レベル汚染水の処理をしています。 このトリチウム汚染水は、いずれは海への放出を予定しているようですがまだ処理方法は決まっていません。そのためタンクを増設してため込むしかありません。
 「計画」は、タンク貯蔵の高レベル汚染水を2014年度中に浄化するとしていますが、ALPSのトラブル続きで「計画」承認後に早くも「困難」との試算を明らかにしました。そのため、タンク容量は80万d貯蔵可能まで増設するとしています。 政府は、約150億円かけて高性能ALPSを導入する予定です。これらがきちんと動けば、貯蔵タンクに溜まった汚染水は2014年度中には全部なくなるといっています。ALPSは試運転から1年余になっても付属設備(ポンプ、タンク、配管)のトラブルが続出し、まだ本格稼働に入れません。
 トリチウム汚染水の処理は宙に浮いたまま、その上、放射性物質を取り除いた後に残る吸着材の最終処分方法も決まっていません。まさに絵に描いた餅になりかねない事態が進んでいるといっていい状況が進んでいます。 東電はタンクからの汚染水漏れトラブル対策で、いま100名しかいない作業員を320名に増員して、1日4回のパトロールをするなどしてタンク管理をきちんとするといっています。
 貯蔵タンクも規制委の指摘を受けてボルト締めのタンクから継ぎ目なしのタンクを増設して汚染水を移し替えていますがタンク堰内の雨水対策、移送作業のトラブル、急ピッチで進められている増設タンクの品質問題(手抜き)などあらたな課題も生まれています。地下水対策で取り組まれている凍土壁の問題があります。
 政府は、地下水流入防止を凍土壁方式で行うとして施工者を公募しましたが応札したのは鹿島建設だけでした。もともと凍土壁方式は鹿島建設のプランです。
 凍土壁はどんな形で作るのでしょうか。凍結官を地下30メートル位まで埋め込み、周辺の土地を凍らせて建屋側に水をいかせないというのが凍土壁で、発電所建屋の周囲1・5キロをぐるっと取り囲みます。いまは試験段階で実際に現地での作業をはじめるのは4月頃からで年末に凍結開始の予定です。政府が約320億円のお金をかけてやっています。いま問題になっているのは、凍土壁をつくると建屋の地下水のレベルは下がります。すると建屋内の汚染水のレベルが高くなると建屋外の流れてしまうという懸念があります。これは鹿島建設自身が懸念している
ことです。
 しかし、いまでも外部識者からは、「凍土壁に優位性が不明」「設置後のコストが示されていない」「地下水の主要因は雨水。その対策を」などの凍土壁方式ありきの進め方への批判が出されています。
 地下水対策では、地下水バイパスといって1号機〜4号機の建屋の山側に12個の井戸をほり、地下水をくみ出してそれをまたタンクに溜め込んで海に放出すると当初は考えていましたが、トリチウムを含んでいますから福島漁連の反対ですすんでいません。(3/25県漁連は承認を苦渋決断)地下水対策で凍土壁に税金を投入しても、その効果があるのかと言えば分からないまま作業が進められています。この凍土壁をやると決めたときから鹿島建設との「出来レース」だったと思います。

〈7〉電力自由化の先取り
ー発送電分離


 つぎに電力の自由化問題です。自由化の進展は、東電の経営にも大きく影響し廃炉までの長い時間を考えたとき原発事故理に大きくかかわってくると思います。
 現在電力の販売は63%まで自由化され東電など電力会社以外の新電力事業者から電気を購入することができます。電力の売り買いが出来る電力市場が設けられ、発電所を持たない事業者も電力市場から電気を買い入れ、販売できます。東電管内では業務用という電力分野では東電以外の新電力(略称PPS)から購入する需要家は増えています。それが2016年には全面自由化にする法案が、今年の通常国会で出されます。これはたぶん決まるでしょう。一般の家庭でも東電以外の会社に変えることが出来ることが出来るようになります。また現在は静岡県の富士川をはさんで東西で周波数(50Hz系統と60Hz系)が違うという問題がありますが、来年には、広域運営をすすめるための運営機関をつくる準備が進められています。現在の地域独占の壁をなくすといいます。しかし、周波数を変換する設備そのものが限られており、運営機関ができても実際に電力が行き交いできるというのは限られます。その設備を誰が負担して増やさねばなりませんが今は電力会社任せになっています。そうした中で電力の自由化をはじめようというものです。政府は、2018〜2020年には送配電部門を「分離」するとしています。しかしこの「分離」という中身がくせ者です。
 いま電力会社は、電気を発電し送電線、配電線、変電所設備を使って家庭や工場、事業所に電力を届けています。この設備を電力会社から切り離し別会社にするというのが自由化の中での一番大きな問題なんですが、これには電力会社は猛烈に反対しています。自分たちが高い資金を投じて作った送電線設備を全部別の会社に持っていかれてしまうというわけです。国は、電力会社の抵抗を弱めようと「法的分離」にする方針です。つまり電力会社は送配電部門を分社化するという仕組みです。つまり電力会社グループとしては送配電部門も抱えられるわけです。東電は、「再建計画」の中でこの方向を先取りしています。実際、すでに東電は燃料・火力、送配電、小売り部門を社内分社化しました。「計画」は2016年度までに持株会社を設立し、その傘下に現在の社内分社燃料・火力、送配電、小売りの今の社内分社をHDのもとに分社化します。それを見据えて「計画」は、廃炉・汚染水対策にかかわる部門を「廃炉推進カンパニー」として社内分社化しました。カンパニー責任者は「世界中の英知を集めて廃炉をやり遂げたい」といいますが今後自由化が拡大され、他電力や新電力との競争がすすむなかで、汚染水対策で指摘された「金を惜しまない対策」が出来るのか懸念は残ります。さらに電気料金の仕組みが変わります。総括原価方式は10年ぐらいかけて亡くなる中でこれまでのように独占・総括原価主義がなくなれば東電の収益に大きく影響を与えることになり、廃炉費用を税金でということも十分考えられます。電力の小売り自由化を見据えて、生活協同組合は新電力として名乗りを上げています。自然エネルギーからの電気を買い一般家庭に電気を売ると言うことですが、その電気は電力会社や東京ガスなどの電源設備を持っているところ、あるいは電力市場から電力を買ってお客さんに売るというということになるんですが、いま予定されている発送電分離では、電力会社内の送電会社の設備をつかって電気を送らざるを得ません。やはり、送電線部門を「構造分離」―今の電力会社から切り離し中立の送配電機関をつくるとかあるいは「地産地消」の供給システムをつくることなどの取り組みがこれから求められます。

国際原子力機関(IAEA)調査団
 心配なのは、トリチウムを含んだ汚染水の処理問題です。IAEAが福島に入って汚染水問題も含めて調査した中間報告では、「トリチウムを含む他の残存核種を海洋に放出することによって生
ずる住民及び環境に対する潜在的な被曝影響を評価することを助言する」と言っています。IAEA調査団長の発言でも、もっと端的に「環境基準を下回れば放出も手段だ」といっています。環境基準をクリアーしたから海洋投棄して良いのか、国民的合意や地元合意のもとに進めることが大事ではないのでしょうか。もちろんそのために科学的知見は必要で、こういう知見を国民。地元住民にどのように理解してもらうのか、時間はかかってもしっかりとやることが大事かと思います。

〈8〉「再建計画」と地元住民

 最後になりますが、「再建計画」を地元住民はどう受け止めているのかということです。
 地元の人たちは「これから先の生活が見えない」「喪失感が大きい」と語り、漁民は「汚れた水は絶対海に流すな」といっています。この漁業の組合長さんはもう少し弾力的ですが、東電ではなく政府がキチンと客観的なデーターを示して説明をといっています。
 トリチウムの人体や環境に対する影響を国民や地元の人たちに理解してもらった上でということが大前提になると思います。
 メガバンクは「再建計画を高く評価している」(三井住友銀行頭取)といっています。マスコミは「金融機関の貸手責任を問わなければならない」(朝日新聞社説12/29)、「原発再稼働はゆるされぬ」(朝日社説1/17)「原発頼みの脱却めざせ」(毎日社説12/29)、「原発頼みは筋が通らぬ」(東京社説1/16)など、結構批判的にみています。全体的にみればいまの国がすすめていく福島の原発の廃炉まで至る40年先の見通しは具体的に見えません。そのなかで燃料プールからの燃料取り出しから始まる廃炉作業、そのための建屋内部の除染、実態把握、汚染水処理などこれがいまのままでの体制で良いのか、東電は国際的知見を求めると言っているのですがもっと国内の各専門分野からの知見を求めるが必要だとおもいます。30年先、40年先どんな事態が起こるかわからない、現場が厳しい労働環境のなかで人の手が集まらないという問題もあります。これらを考えるとやはり、この「計画」は結局「東電再建ありき」なんだなと思いました。
(完)