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米原子力空母の横須賀基地母港化の危険性について、横浜国立大講師(物理学)の今野宏さんに当会の常任世話人の鈴木章治さんがお聞きしました。 お話からその危険性が浮き彫りにされました。 |
横須賀基地の原子力空母ジョージワシントンの母港化には、二つの問題があります。 一つは、アメリカの世界戦略のための基地強化という問題です。 もう一つがこれまでのヂーゼル機関を推進力にしていた通常型空母に代わって、原子炉を推進エネルギー源にする原子力空母が配備されると原子炉事故による放射能被害という問題があります。 原子力発電の原子炉は、とくに問題がない限り定期点検まで一定の出力で運転を続けるんです。これが原子炉にとって安全だとされているんです。ですから、電力需要の変化への対応は、水力発電や火力発電で調整するというやり方をとっていて、原子力発電はいつも一定の出力を保つようにしています。
ところが空母は軍事用ですから、原子炉の運転は出航のときには原子炉の運転を開始して出力をあげ、入港すれば停止させます。また演習で空母から艦載機が飛び立つときや着艦の時は風上に向かって全速で動き、その後速度を落とすでしょう。ましてや戦場に行った際には、相手の攻撃をかわすために絶えず止まったり発進したりするわけで、演習にあたっても通常の原子炉とは非常にちがった運転をやらざるを得ないんです。ですから原子炉は通常型の原子炉とは(設計などは)違うだろうと予想するんですが、すべて軍事機密だとして明らかにされていません。 いずれにしても原子炉の運転の常識からすれば急速に出力をあげて運転する、急に停止するというのは大変危険なんです。なぜならば原子炉は運転しているときには三〇〇℃の高温・高圧になり、運転していない時は温度は下がります。それをくり返すと金属疲労を起こして破壊しやすくなります。急激な出力制御はコントロールも不安定にならざるを得ず、危険性が非常に大きくなります。
空母の原子炉につかう燃料棒のウラン濃縮度が高いという問題もあります。空母の原子炉の燃料としてつかうウラン235の濃縮度は、九七lです。核兵器に使用するウラン235の濃縮度は九三l程度ですから、これさえも上回る。原発の原子炉などにつかう燃料は濃縮度が三〜五l程度ですから、まかり間違っても核爆発には至らない。暴走してもそこまではいきません。ところが、これだけの濃縮度をもっていると、普通に考えれば核爆発の危険性があります。 もちろん、その対策は講じられていると思いますが、その辺のデティール(細部)もわからない。
また軍事目的のために安全性は犠牲にされているのではないかと言うことです。 原発の場合は原子炉の外側はコンクリートで固めた建屋をつくる。原子炉事故が起きても簡単には放射能が外にでないような頑丈なコンクリート製の建屋をつくります。 しかし空母のなかにそういうものをつくるわけにはいきません。そういう点でも安全性が犠牲にされている可能性が強いのではないでしょうか。
放射能が大量に漏れる事故というのは、水漏れとともに放射能がでてくる原子炉そのものが破壊される事故です。核爆発ではありませんが爆発を伴っています。 一番起こりやすいのが冷却水の過熱による水蒸気爆発です。炉が暴走したり冷却系統に故障があれば、たちまち水蒸気爆発を起こします。 もう一つはコントロールがきかずに暴走したときに、大量の熱が発生し、そのために燃料棒が溶けてメルトダウン(炉心溶融)現象を起こします。高温の金属と水が接触して反応を起こして水素爆発の可能性が起きます。チェルノブイリ事故では最終段階で二度爆発が起きましたが、一回目は水蒸気爆発、二回目が水素爆発ではないかといわれています。そうなると内側の仕切などは破られて高圧ガスや水蒸気が吹き出て、外部にながれでます。 私は原子炉の冷却が止まったら、どれくらいの熱が出るのか計算してみました。熱出力が一〇〇万`ワットの原子炉の場合、一秒間で一〇〇万ジュールのエネルギーが熱となって出ます。冷却水が故障すると水がいっぺんに熱せられます。そのエネルギーは二十三億カロリーで、二十三・八トン(ほぼ大型タンクローリー並)の水を一秒間で〇℃から一〇〇℃に一気に沸騰させることができるものです。しかもこのときは原子炉はコントロールが不能になっていますから、すぐには止められない。金属も溶けます。ですから空母の原子炉のまわりを二重、三重に囲ってあるからといって安全などというのは全くのごまかしです。
しかしこれほど危険な原子炉も、商用原発に適用される原子炉の国の耐震基準も適用されません。しかも海の上で絶えずゆれています。原子炉をコントロールするために制御棒を出し入れします。一般に機械的制御は振動や衝撃に弱いんです。その点をどう解決しているのか、これも明らかにされていません。常識的に考えれば振動・衝撃は危険につながります。しかも船舶は座礁や衝突などの危険にさらされています。原子力空母の事故は分っただけでも、一九七九年以後、八件も起きています。危うく放射能もれにつながるような事故もあります。衝突などの船舶事故も原子炉の事故に連動する可能性があります。 |
横須賀にはすでに原子力潜水艦が寄港しています。こんどはそこに原子力空母がきます。もし事故につながったらどうなるのか多くの人が心配しています。 原潜の原子炉の規模は、原子力空母の五分の一くらいです。それですら大変危険だということをカリフォルニア大学教授のジャクソン・デービス氏が明らかにしています。ジャクソン・デービス氏は、原子力潜水艦の原子炉が事故を起こして、首都圏一帯に被害が及んだ場合、風向き等の気象条件もありますが死者は七万七千人になるだろうと報告しています。 原子力空母よりはるかに小さい規模の原子炉をもつ原子力潜水艦の事故ですらこうした被害がありうるのです。
もう一つ指摘したいのは大惨事をもたらしたチェルノブィリ原発事故との対比です。原子力空母の原子炉は、出力の大きさではこのチェルノブィリ原発の原子炉とそれほどちがいません。横須賀の原子力空母の原子炉で、仮にチェルノブィリ原発程度の事故が起きたとすれば、チェルノブイリとは比較にならないほど首都圏全体に大きな被害をもたらすことになるでしょう。チェルノブィリ原発と首都圏では人口密度がはるか違います。世界有数の人口密度の日本の中でも首都圏はとりわけも人口が密集しています。 東京などの首都圏に比べれて格段に低い人口密度のチェルノブィリ原発事故では、被曝者がウクライナでは三二〇万人、ロシアでは一四五万人、ベラルーシでは数十万人。つまり五百万人も被曝者をだしました。
日本の首都圏の人口密度はざっとウクライナの三十五倍ですから、かなりの数の人たちが被曝する。首都圏の人たちがほとんど放射能被害を受けるでしょう。 ェルノブィリ原発事故での全体の死者のデーターはないんですが、ロシアでは事故処理作業のために事故後に現地に入った八〇万人(リクヴィダートルと呼ばれる人たち)が被曝し、そのうち二万五千人が被曝のために死亡(ウクライナ保健省発表)したといわれています。この死亡率を三分の一に割り引いてもこれを首都圏に換算すると晩発性のガンや白血病などで亡くなる人は七十五万人にも及ぶことすら想定されます。事故後二〇年くらいの間になくなるということです。 こうした原子炉事故の被害予測は、科学分野の雑誌「科学」(06年1月号)の「原子力における説明責任」という論文の中でも指摘されています。この論文では、地震により浜岡原発に大事故が起きた場合を想定した被害のシュミレーションを行なっています。そのシュミレーションは、米国原子力規制委員会の報告にもとずいて行なったものです。浜岡原発の原子炉から漏れだした放射能の雲によって、東京を含む人口密集地帯が被曝し、理想的な避難行動がとられたとしても、急性死者は二万四千人、晩発性ガン死者は百十万人に及ぶと指摘しています。
こうした人的にも大変な被害が予想されますが、もう一つの重大な問題として首都機能も大きな被害を受けるということがあります。 首都圏人口は三千三百万人ですが、ここには政府機関、金融機関の本店、東京湾をとりまく大工業地帯、貿易国日本の玄関口でもある港湾もあります。ここが放射能被害を受ければこうした機能は大混乱を起こし麻痺します。避難しきれない膨大な人たちが孤立します。救援にも簡単には入れないでしょう。証券取引も麻痺します。国民の生活にとっても、国家の機能も経済も麻痺してこれは国際的にも大きな影響を与えます。
こういうことを考えると原子力空母の問題は、一地方の問題ではなく、日本全体の問題として考えるべきだと思います。 こういう原子力空母がもたらすリスクを活動に携わっている人たちがリアルにつかみ、多くの人に知らせていくことが大事だと思います。 |
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